商品紹介

『糸の建築』 最長文(さいちょうもん)

画像は呉服の生地のZOOM画像、最初が『白鷹風通崩し手綾織』,次が『北村武資 班錦 袋帯』。少しづつ織り布からカメラを離して撮影するといつもの呉服屋の染織の風景です。呉服屋歴が長いと、ある種凝り固まった感覚が誰にも出来ると思うのですが着物や帯の取り合わせのセンスは『みずもの』だと考えています。なのでこの着物と帯の取り合わせも、ある側面から見ると『もの足らない』『着物的ではない』し、違う側面からは『モダン?』になるのかもしれません。言い換えれば、それぞれの感覚『好き嫌い』で一瞥されて終わるし、ぐぐっと『何か』に引き込まれる方もいらっしゃるでしょう。

発信させて頂く立場としては、実物を目の前にして布の感触を味わっている私の、この感覚を少しでも伝わればと常日頃思いながらインスタ等のSNSに画像をアップすることが多いのですが、撮影環境をプロフェッショナルにするような資金無く、まして努力もしていないので(すみません)今回は手法を変え『ZOOM』画像からスタートです。

絣糸を使わずに、様々な綾織りを開発し商品を世に送り出した本場黄八丈の中でも、高度の織り手の技術を必要とするのが『風通くずし』。それを置賜で再現したのがこの反物です。問屋さんで遠目で見つけても、この反物の『何か』の迫力に吸い込まれて行きました。この黄八丈と置賜の関係では、『たつみ綾織』という織物でお客様にもお見せした事があったのですが、今回の『風通くずし』は本家を凌ぐくらいの存在感があります。

綾織りは複雑な糸の交差で光を反射しますので、平織りとは違う持ち味があるのですが、この着物は黄八丈の本場では出せない色合いが熟練した織り手で作られています。こうしてZOOMで見ますと、使われている色糸は青、灰、茶。それぞれの植物染料は藍、梅、矢車が使われているそうです。遠目にはグレーの無地感覚の着尺ですが、近くでみると複雑な織り紋様が分かります。反物を立てて身体に添わせると、布のドレープによって影になるところと光になるところ、そのニュアンスが呉服屋としての『布フェチ感』を存分に刺激してくれます。最近は『平織りこそ織り布の醍醐味』という定で居ましたが、久々に綾織りの布に感動したのでした。

合わせた帯は、皆様よくご存知の北村武資さん袋帯。多くを説明せずとも作品の素性は呉服通に通じておりますが,この班(まだら)に織りなされた地が、この着物に心地良いのです。これは呉服屋歴の長い私の凝り固まった感覚かもしれません。着物と帯の色が近過ぎて、コーディネイトとしても面白味に掛けるかもしれません。撮影したのが10日程前で、やはり面白くないかな~とアップせずにいたんですけど、少し自分なりの気づきがあったのでアップしてみました。

一つは『足らないと思っていた赤味が、帯に隠れていること』。茶味と言っても良いかもしれません。グレー(灰)をメインにした着物が多いので、赤系、緑系はあまり使わないように思われていますが、赤味(茶味)は和装にとって必要な要素だと思います。これが日本の色としての品格をもたらせていると。詳しい話は、染色家・仁平幸春さんのnoteのどこか、『和装における茶味成分の重要性』,たしか、このようなタイトルで書かれているので、興味のある方は探してみてください。

もう一つは『絹糸が創り出す構造物』としての共通性を強く感じたこと。どの織物も経て糸、緯糸(ヨコ糸)が交差して布をつくるのですが,織りなした布の質は本当に様々です。北村武資さんは『正倉院』に入っているような最高峰の絹織物をご覧になって、今の技術では織れないような古代製織技法の復元、または解明を目指されたと思います。ZOOMして改めて気付いたのですが、糸の交差のその一つ、小さな交差が全体を見た時の隠し味になって、織り布の深みを感じさせてくれます。遠目でみて同じような紋様の帯は幾らでもあるでしょうが、『何か違う』というその差は、この小さな交差の点、その色の煌めきの集合体として、最後には大きな差を生んでいるのだと改めて実感しています。

この着物にしてもやはり同じ事が言えると、そのように感じて、この着物と帯を取り合わせしたのだと自分に言い聞かせて,ようやく今日、アップしてみました。普段はこんな事など考えないで、どんどん揚げる事が多いのですけどね。これもコロナ禍の因るものかもしれません?

『糸の建築』というタイトルで、簡単にアップするつもりだったんですけど、夕方に書き始めて熱くなっても途中で頓挫して、また夜に書き始めて、いま夜の12時前。ニュースばかり見ていては何も始りませんね。いまは、お酒、NHKで『筋肉も嬉しい!』のおじさんが体操してます。

僕のあの胸筋は何処に逝ってしまったんだろう(遠い目)。インスタグラムで無謀な長文にしてしまいました。きっと読んでくれる人いないと思います。もし最後まで読まれた方、今度店でお会い出来た時、是非お知らせ下さいませ。何か良い事あります、たぶん。

『白鷹風通崩し手綾織』のZOOM画像
『北村武資 班錦 袋帯』のZOOM画像
少し近くに寄ります
少し離れます
いつもの撮影位置です。着物も帯も、糸の交差による建築物であることを感じて頂けると嬉しいです。

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